新潮文庫 夏のキャンペーン広告
新潮文庫ベスト100
新潮文庫の100冊
*** コメント (2012)***


新潮文庫の100冊
(2012年)
   

○配列
  • 恋したくなる本 (14冊)
  • 興奮する本 (34冊)
  • 泣ける本 (18冊)
  • 面白すぎる本 (26冊)
  • 考える本 (16冊)
****** #各グループは、日本作品、海外作品の順に配列

★新規採用作家

●復活した作家

▼交代した作家#は10年以上継続して採用されてきた作家


○コメント
 今年は、「新潮文庫の100冊」の特設 Twitter やWeb Siteが開設されるよりもはやい6月下旬の時点で、Amazon.co.jp 上で100冊のラインナップが紹介されていました。

 今年の大きな特徴としては、作品の区分方式が1999年以来の4区分
(名作、現代文学、海外文学、エッセイ・ノンフィクション)から読者の要望にこたえるような5つの区分(恋したくなる本、興奮する本、泣ける本、面白すぎる本、考える本)に再編された点が挙げられます(過去にこのような区分がなかったのかと、夏のキャンペーンの歴史を遡ってみると、1967年に1度だけ「青春」、「人生」、「恋愛」の観点で区分されたことがあったようです)。文学全体を俯瞰するような従来の区分から、読者側の要望にこたえる今年の区分に変更されたのは、読書の世界への間口を少しでも広げたいという工夫なのでしょうか?ちなみに、角川文庫 (7区分+α) 集英社文庫 (8区分) の夏のキャンペーンではこうした区分方式がすでに採用されています。

 今年の「100冊」
(正確には99人の計108冊) のラインナップをみてゆくと、新規採用作家が9人で昨年度の19人と比べると半減しています(・・・とはいっても2000年代(2002〜2009)の新規採用数が5〜9人だったので、その水準に戻ったのだと思います)。復活した作家(13人)と交代した作家(25人)については、昨年度とほぼ同程度(昨年度はそれぞれ15人、27人)です。

 今年の新規採用作家のうち、昨年コメントした「朽ちていった命」が原発事故に関連した作品として採用されています。ショーペンハウアー
(←テレビ東京の本の紹介コーナーで取り上げられて話題になったそうです)木田 元 といった哲学の本が新たに採用されているのは、昨今のテレビがきっかけで話題となる「哲学」本の影響なのでしょうか?

 今年復活した作家のリストをみてゆくと、石川啄木島崎藤村が詩集で、サガンマーク・トウェインが新しい翻訳で復活しているのに気がつきます。このところ採用作品数が減少傾向にある海外作品は、新訳による復活で今後は増えてゆくのでしょうか?
(ちなみに、今年の100冊に占める海外作品の割合は 18% (=日本人作家の作品数:89/海外作家の作品数:19)とやや回復した感じです。)詩集の復活は今年の選定方針の特徴のような気がします。
 
 今年交代した作家のリストについては、1980年代から採用が続いてきた赤川次郎が入っているのが目を引きます。新田次郎については、6月に新潮文庫で発売されたばかりの「つぶやき岩の秘密」
(1970年代に放映されたNHK少年ドラマシリーズの名作でした・・・)を採用して今年は継続して欲しかったと個人的には思います。今年が生誕150年で、今秋には東京都文京区に記念館ができる森 鴎外は、隔年のローテーション(?)を守ってなのか今年は採用されませんでした。

 今年のラインナップ全体をみてゆくと、島崎藤村 「藤村詩集」太宰 治 「きりぎりす」ショーペンハウアー 「幸福について」といった過去に採用されたことのない、意外とも思えるような古典が採用されている点にも興味がわきます。50年以上前のこのような古い作品であっても、掘り起こしていけば、今の時代にも読まれる「名作」といえるものがまだまだあるのでは?と思えてきます。個人的にぜひ復刊して欲しいと考えている新潮文庫の作品としては、猪谷六合雄 「雪に生きる(上・下)」があります。この本は、出版から50年以上が経過していますが、アウトドア生活や質素な暮らしの工夫等が平易で独特の文体で書かれていて、現在読んでも新しさが感じられます。猪谷六合雄の質素で合理的な生活スタイルは、今でもWebや雑誌などで紹介されることはあります
(新潮社の季刊雑誌「考える人」でも紹介されました・・・)。しかし、彼の代表作である「雪に生きる」は、(新潮文庫を含め)どの出版社でも長いこと絶版で古書価も高いため、手軽には読めない状態が続いています(ちなみに、続編の「雪に生きた80年」(実業之日本社, 1972年)も名作だと思います)(昔話になりますが・・・)長野オリンピック(1998)の際に記念復刊されるのでは?と期待していましたが、どこの出版社からも復刊されませんでした・・・。

 書店に置かれた今年の100冊のパンフレットのそばには、文庫化された村上春樹「1Q84」の特集パンフレットも併せて置かれています。ミニコラム
(例年は大抵は掲載されている)「ロングセラーのトップ20」のないシンプルな今年の「100冊」のパンフレットに対して、「1Q84」特集パンフレットは、多くの著名人の写真やコラムを掲載しています。「1Q84」特集パンフレットは、今年の100冊のパンフレットの「分冊」ではないかとも思えます。

○付記
今年の新潮文庫の100冊のWeb Site内の 
 *100冊ビューワー
 *テキストで見る
 *著者名順
 *ま行
  の作品リストみると

  宮部みゆき「英雄の書」(上・下)
  
が表示されません。おそらくWebデザイン上のミスでしょう。
************************************[2012.7.3確認]

 昨年に引き続き、今年も「中学生に読んでほしい30冊」と「高校生に読んでほしい50冊」のパンフレットが作られ、中学校・高等学校に配布されているようです。パンフレットの現物は未確認ですが、それぞれのリストは新潮社のWeb Siteで紹介されているので下の表にまとめました。
 「新潮文庫の100冊」とは別に、このような中高生向けのパンフレットが作られているということは、「新潮文庫の100冊」が対象とする年齢層が拡散していることを反映しているのでしょうか?
中学生に読んでほしい30冊 高校生に読んでほしい50冊
有川 浩 「レインツリーの国」
伊坂幸太郎 「重力ピエロ」
上橋菜穂子 「精霊の守り人」
江國香織 「すいかの匂い」
小川洋子 「博士の愛した数式」
恩田 陸 「夜のピクニック」
重松 清 「きみの友だち」
新潮社ストーリーセラー編集部・編 「Story Seller」
太宰 治 「人間失格」
夏目漱石 「坊っちゃん」
梨木香歩 「西の魔女が死んだ」
中沢けい 「楽隊のうさぎ」
畠中 恵 「しゃばけ」
星 新一 「ボッコちゃん」
宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
三島由紀夫 「金閣寺」
宮部みゆき 「レベル7」
三浦しをん 「風が強く吹いている」
村上春樹 「海辺のカフカ (上・下)」
山田詠美 「ぼくは勉強ができない」
湯本香樹実 「夏の庭」
吉本ばなな 「キッチン」
米澤穂信 「ボトルネック」
リリー・フランキー 「東京タワー」
ヴェルヌ 「十五少年漂流記」
カフカ 「変身」
サン=テグジュペリ 「星の王子さま」
ドイル 「シャーロック・ホームズの冒険」
ヘッセ 「車輪の下」
ヘミングウェイ 「老人と海」
 
芥川龍之介 「羅生門・鼻」
赤川次郎 「ふたり」
有川 浩 「レインツリーの国」
井伏鱒二 「黒い雨」
伊坂幸太郎 「重力ピエロ」
いしいしんじ 「トリツカレ男」
上橋菜穂子 「精霊の守り人」
江國香織 「すいかの匂い」
小澤征爾 「ボクの音楽武者修行」
小川洋子 「博士の愛した数式」
恩田 陸 「夜のピクニック」
川上弘美 「センセイの鞄」
角田光代 「さがしもの」
金城一紀 「対話篇」
神永 学 「タイム・ラッシュ」
近藤史恵 「サクリファイス」
佐野洋子 「がんばりません」
さくらももこ 「そういうふうにできている」
司馬遼太郎 「人斬り以蔵」
司馬遼太郎 「燃えよ剣 (上・下)」
重松 清 「きみの友だち」
太宰 治 「人間失格」
夏目漱石 「坊っちゃん」
梨木香歩 「西の魔女が死んだ」
中沢けい 「楽隊のうさぎ」
中村 計 「甲子園が割れた日」
畠中 恵 「しゃばけ」
橋本 紡 「流れ星が消えないうちに」
藤原正彦 「若き数学者のアメリカ」
星 新一 「ボッコちゃん」
舞城王太郎 「阿修羅ガール」
宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
三島由紀夫 「金閣寺」
三浦綾子 「塩狩峠」
宮部みゆき 「レベル7」
三浦しをん 「風が強く吹いている」
養老孟司、宮崎駿 「虫眼とアニ眼」
道尾秀介 「向日葵の咲かない夏」
村上春樹 「海辺のカフカ (上・下)」
山田詠美 「ぼくは勉強ができない」
湯本香樹実 「夏の庭」
吉本ばなな 「キッチン」
米澤穂信 「ボトルネック」
リリー・フランキー 「東京タワー」
ヴェルヌ 「十五少年漂流記」
カフカ 「変身」
サン=テグジュペリ 「星の王子さま」
ドイル 「シャーロック・ホームズの冒険」
ヘッセ 「車輪の下」
ヘミングウェイ 「老人と海」 
(文中敬称略)
(2012.7.3)

新聞広告・パンフレット表紙の変遷
キャッチフレーズ・キャラクターの変遷
キャンペーン・プレゼント等の変遷
採用作品の変遷
コメント 参考資料・註
旧稿(1998), 1999, 2000-2001, 2002-2004, 2005, 2006, 2007, 2008, 2009, 2010
2011, 2012, 2013, 2014, 2015, 20162017, 2018, 2019, 2020, 2021, 2022, 2023, 2024
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