新潮文庫
夏のキャンペーン広告 新潮文庫ベスト100 新潮文庫の100冊 |
*** コメント (2021)*** |
新潮文庫の100冊 (2021年) |
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○配列
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★新規採用作家 ●復活した作家
▼交代した作家(#は10年以上継続して採用されてきた作家) |
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○コメント 今年のパンフレットのテーマは紙飛行機に乗って空を飛ぶキュンタですが、例年みられる夏のアイテム(花火、海、すいか、縁日など)は描かれていません。 キュンタは空から地上の動植物に向かって語りかけたり、月面にも着陸していますが、本屋(自宅?)以外の地球上には降りていません。マスクは描かれていませんが、キュンタのストーリーの背景には昨年から今も連綿と続く新型コロナウイルスの世界的感染が感じられます。 今年の「新潮文庫の100冊」の特設サイト(Web上で事前の予告どおり7/1に公開)も過去のキュンタのストーリーやキュンタに関するフリーイラストページやLINEスタンプ等が公開されています。 今年も「100冊」のオリジナルプレゼントは、「キュンタうちわしおり」(昨年とは別デザイン)で、TwitterやInstagramを駆使すれば抽選で「純金キュンタしおり」(昨年とは別デザイン)がもらえるようです。 「新潮文庫の100冊大人買い全点セット」については、今年は全101冊:67,100円(税込)で、昨年の全100冊:72,600円(税込)と比べるとお得感が感じられます。コロナの影響等で本が買いにくくなっている読者に対する大サービスなのでしょうか? 「限定プレミアムカバー」は、昨年と同じく8冊が採用され、「こころ」(白)、「人間失格」(黒)については昨年(2020年)とカバーの色まで同じです(違いはタイトルで、昨年(2020年)は横書き、今年(2021年)は縦書きです。ちなみに一昨年(2019年)も調べてみると、「こころ」(白)、「人間失格」(黒)で、タイトルは縦書き(2021年とは文字サイズが違うようだ・・・)です)。 また、「100冊」ではありませんが、読書記録をメモする「ほんのきろく」が今年(2021年)から登場しました。100冊分が書けるので、「私の選んだ○○ベスト100」等にも使えそうな良い企画だと思います(新潮社の「マイブック」を愛用している私は、「夏から始まるマイブック」のようなものがあってもよいと思っていました・・・)。 今年(2021年)の「100冊」も「恋する本」等の各ジャンルの本がほぼ同数になるように分けられ、私の数え方では96人の作家の総計99冊が採用されています。 昨年(2020年)の「100冊」と比べてみると、今年の「100冊」では、新規採用作家(6人)、復活した作家(7人)、交代した作家(8人)となり、昨年(2020年はそれぞれ、8人、6人、23人)と比べると、交代作家が大きく減っていることがわかります。 今年採用された作家(6人)の中では怪奇小説・幻想小説の先駆者といわれるラヴクラフト(1890-1937)の初採用が目立っています。 復活した作家(7人)については、7人中4人(三島由紀夫、道尾秀介、燃え殻、柚木麻子)が昨年(2020年)の交代後1年で早速復活しています(残る3人の作家も比較的最近採用されています)。三島由紀夫については、昨年(2020年)の「100冊」で採用されなかったことには驚きましたが、2020年の秋には「初めて出会う新・三島由紀夫 没後50年の新装幀・新解説」というフェア(URL:https://www.shinchosha.co.jp/shin-mishima/ [2021.7.5 確認])が行われたようです(このフェアのパンフレット(発行:2020-11)には「『金閣寺』『潮騒』から読まなくていいんです!・・・(中略)・・・なぜなら三島こそ、純文学に極上のエンタメ性を融合させた〈物語作家〉だから!!」と書かれていて、三島由紀夫を「文豪」として紹介してきた新潮社の従来のスタンスを考えると、かなり思い切った方針転換が感じられます)。ちなみに、今年(2021年)の「100冊」では「金閣寺」が採用され、限定プレミアムカバーにもなっています。 山本周五郎については、前回(2009年以来12年ぶり)と同じく「さぶ」が採用されています。前回(2009年)は、リーマン・ショック(2008年)の影響による世界同時不況だった(私の感覚的には日本では最近20年以上好況だった時はなかった気がする・・・)ので、(前回と同じく)「"不況"の時には山本周五郎を採用」ということでしょうか? 交代した作家(8人)には10年以上採用された作家はいませんでした。 海外作家の作品については、今年(2021年)は全体に占める採用割合が 14% (=日本人作家の作品数:84/海外作家の作品数:14)となり、昨年(2020年)の16%と比べるとやや低下しました(秋草俊一郎「「世界文学」はつくられる」(東京大学出版会, 2020年)によると、新潮社は戦前から海外作家の文学全集を刊行しているので、今でも「新潮文庫の100冊」で海外の文学作品を(他社のキャンペーンと比べて)多く採用しているのも納得がいきます)。 ここで話は少し脱線しますが、秋草俊一郎「「世界文学」はつくられる」にはアメリカの大学の文学教育で使われる叢書「世界文学アンソロジー」に収録された日本作家について分析が行われていて、近年最も採用頻度が高いのは(村上春樹でも三島由紀夫でもなく)樋口一葉だそうです。その理由として秋草氏は「優れた英訳」、「短編」、「西洋文学の影響を受けていない(ように見える)」、「フェミニズム」等の点があると推論しています。一方、夏目漱石等の明治の文豪の作品は「ヨーロッパのリアリストの模倣」とみられることもあるらしく収録されることはほとんどない(夏目漱石については皆無)そうです。 もう1つ脱線ですが、2019年と2020年のコメントで小林信彦「日本の喜劇人」のことにふれましたが、今年(2021年)の春「決定版 日本の喜劇人」が新潮社から単行本として刊行されたのでまたまたコメントします。 私が「決定版」で注目していたのは、文庫版「日本の喜劇人」(1982)の終章以降(1980年代から現在まで)の描き方でした。 文庫版「日本の喜劇人」の終章(「高度成長の影」)ではビートたけしとタモリに対する詳細な言及がありましたが、「決定版」の最終章(「高度成長のあと」)では距離を置いたような記述にとどまり、彼ら以降の「お笑い」芸人(たち)についてはほぼスキップしているのは少し残念でした(大病から「生還」した90歳に近い著者が「決定版」を刊行するだけでも驚くべきことで、40年前の「文庫版」当時のような言及を期待すること自体「お門違い」でしょうが・・・)。
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(文中敬称略) (2021.7.5) |