新潮文庫
夏のキャンペーン広告 新潮文庫ベスト100 新潮文庫の100冊 |
*** コメント (2020)*** |
新潮文庫の100冊 (2020年) |
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○配列
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★新規採用作家 ●復活した作家
▼交代した作家(#は10年以上継続して採用されてきた作家) |
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○コメント 今年(2020年)は2月頃から「SARS-CoV-2」(現在「新型コロナウイルス」と一般には言われていますが、今後も次々とタイプの違う「新型コロナウイルス」が登場する可能性があるので、(喩え方が悪いかもしれませんが・・・)「ウルトラマン・ジャック」(TV放映時のタイトルは「帰ってきたウルトラマン」)や「スカイライダー」(TV放映時のタイトルは「仮面ライダー」)のように後年の名称変更等で混乱しないようにここでは正式名も併記しておきます・・・)の世界的な感染流行が続き、日本でも外出制限や営業自粛やオリンピックを含めた各種催物の中止・延期等が要請されたため、今年の「100冊」はひょっとしたら中止になるのでは?とも思っていました(中止の際には「自分が新潮文庫から何冊か選ぶとしたら何があるか?」ということも少し考えました(私がまず思い浮かべるのは、昨年のコメントでも書きましたが小林信彦「日本の喜劇人」で、新潮社のPR誌「波」2020年3月号から6月号にかけて短期集中連載された「『決定版日本の喜劇人』最終章・改」を組み込んでぜひ文庫の改訂版を出してほしいと期待しています)。そうこうするうちに、6月下旬となって近所の書店で2020年のキャンペーンパンフレットを入手しました。パンフレットには花火と夏祭りに出掛けるロボット「キュンタ」のショートストーリーが昨年同様カラフルに描かれていますが、今年(2020年)は「キュンタ」に描かれた明るい夏とは違い、何をするにも「SARS-CoV-2」(「新型コロナウイルス」)の影を常に意識しないといけない夏になりそうです。 今年の「新潮文庫の100冊」の特設サイトには昨年と同じく過去のキュンタのストーリーやキュンタに関するフリーイラストページやLINEスタンプ等が公開されています。 今年の「100冊」のオリジナルプレゼントは、昨年同様「キュンタうちわしおり」(昨年とは別デザイン)で、TwitterやInstagramを駆使すれば抽選で「純金キュンタしおり」(昨年とは別デザイン)がもらえるのも昨年と同じです。 「新潮文庫の100冊大人買い全点セット(100冊)」については、昨年は全110冊で70,000円(税込)だったのに、今年は全100冊で72,600円(税込)となり、昨年より10冊減ったのにセット価格が3000円近く値上がりしていますが、これは2019年10月の消費税率改訂(8 % → 10 %)の影響でしょうか? 2008年から始まる「限定プレミアムカバー」には、今年初めてカミュ「異邦人」が対象となりましたが、これは(後述しますが)話題作にもかかわらず「100冊」への採用見送りとなった「ペスト」の代償でしょうか? 今年(2020年)の「100冊」は、昨年(2019年)同様「恋する本」等の各ジャンルの本はほぼ同数ですが、各ジャンルの数は昨年(2019年)よりも1〜2冊減らされています(パンフレットのページ数は同じ(64ページ)なので比較してみると、今年のパンフレットでは各ジャンル末尾のすべての空欄に「キュンタ」が描かれたカットを掲載しています)。 また、今年(2020年)の「100冊」は、私の数え方では92人の作家の計96冊となりました。21世紀に入って「100冊」の意味合いが「採用された本の実数」から「キャンペーンの総称」に変化してから、常に100冊以上の本が採用(私の考えた仮称ですが「切り捨て100冊」)されてきましたが、今年(2020年)は(私のカウント方法ですが・・・)初めて実数が100冊を切る(こちらは「切り上げ100冊」と仮称します・・・)状態になりました(私の単なる憶測ですが、今年「切り上げ100冊」としたのは、「100冊大人買い全点セット」の価格上昇を抑えるために冊数を減らす(お菓子やヨーグルト等で使われている手法と同じ)ある種の「シュリンクフレーション(=ステルス値上げ)」のような気もします・・・)。 今年の「100冊」に関する作家リストをみてゆくと、新規採用作家(8人)、復活した作家(6人)、交代した作家(23人)となり、昨年(2019年はそれぞれ、4人、12人、17人)と比べると、今年は新規採用と交代の作家を増やして復活作家を減らす方針が伺えます。 今年復活した作家のうち、27年ぶりのバーネットは、川端康成訳の新刊「小公子」で復活しました。沢木耕太郎も増補新版として新たに刊行される「深夜特急」で5年ぶりに復活しました(私には立花隆(最近では読みが同じ政治活動家の方が有名になっていますが、1940年生まれのノンフィクション作家の方です・・・)が今年(2020年)になってちくま文庫から「エーゲ 永遠回帰の海」等の過去の紀行を刊行したのと時代的に共通するものを感じます・・・)。 また、今年の「100冊」には感染症の世界を描いたことで話題となっているカミュ「ペスト」や感染症に関する解説本が採用されていないことに気がつきました。私は、第92回アカデミー賞にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(監督:グレタ・ガーウィグ)の原作「若草物語」(オルコット)が1996年以来24年ぶりに「100冊」に採用されると思っていました(ちなみに、1995年の採用時にはウィノナ・ライダー主演の映画「若草物語」の映画割引券が「100冊」のパンフレットに付属していました・・・)。近所の映画館(シネコン)で「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」が上映中だったので観に行ったところ、よくできた映画だと思いましたが、(ネタバレですが・・・)劇中で登場人物の1人が感染症(猩紅熱)に感染して亡くなるシーンがあり、南北戦争当時の遠い昔の物語から一気に「SARS-CoV-2」(「新型コロナウイルス」)に苦労する私たちの現実世界に引き戻された感覚になりました(この点が「若草物語」の「100冊」採用見送りの原因かもしれません。ちなみに、「若草物語」は、今年の「中学生に読んでほしい30冊」には採用されています)。 交代した作家名を見てゆくと、今年(2020年)は三島由紀夫の交代が特筆されます。 三島由紀夫は、(私が調べた限りですが新聞広告上で新潮文庫の夏のキャンペーン広告を最初に確認できた)1961年以来採用が継続し、三島は生前から新潮社とも縁が深く(1987年から新潮文芸振興会が「三島由紀夫賞」を主催)、さらに今年(2020年)は三島の没後50年目にあたり、三島と東大全共闘の討論会(1969年5月)を記録したドキュメンタリー映画「三島由紀夫 vs 東大全共闘〜50年目の真実〜」(ちなみに、この時の討論会の内容は1969年に新潮社から単行本「討論 三島由紀夫vs.東大全共闘−美と共同体と東大闘争」として刊行され(現在絶版)、現在は角川文庫「美と共同体と東大闘争ー討論 三島由紀夫vs.東大全共闘」として刊行中)が公開されるくらいの”Anniversary year”のはずなのに、今年(2020年)の「100冊」では敢えて(?)採用が見送られています。当初私は、2018年の「新潮文庫のロングセラーTOP20」の時のような単純な編集ミス(2018年3月末までの累計発行部数リストで前年までTop10付近にあった三島の2作品がこの年だけTop20から消えた(翌年(2019年)には復活)かと思いましたが、10年以上採用されてきた他の作家(道尾秀介、ヴェルヌ)の交代とも何か共通点があるかと思ってWebで調べてみました。その結果、彼ら3人の作品にはそれぞれ「炎上案件」的な面があるので、今年(2020年)の「100冊」から外されたのではないかと想像しています(私の想像する「案件」とは下記のとおりです)。
それから、筒井康隆「パプリカ」(2002)(2006年にアニメ映画化)が今年(2020年)採用されたのは、2019年に大ヒットした米津玄師の同名の曲への"便乗(or コラボ?)"なのでしょうか(Web上では、両者の識別のため筒井「パプリカ」の方を「ヤバい方のパプリカ」と呼ぶ人もいるようです・・・)? 海外作家の作品については、今年(2020年)は全体に占める採用割合が 16% (=日本人作家の作品数:81/海外作家の作品数:15)で、2015年からはほぼ一定の割合(16〜18%)を維持しています。 ちなみに、角川文庫と集英社文庫の今年(2020年)の夏のキャンペーンで採用されている海外作家の数は、角川文庫では2作品、集英社文庫では3作品であり、「新潮文庫の100冊」だけは海外作家を積極的に採用しているといえそうです。
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(文中敬称略) (2020.7.12) |