[旧稿]
○はじめに
夏になると、中高生を主な対象にした各出版社の文庫を紹介したパンフレットが書店に並びます。
各社のパンフレットのうち「新潮文庫の100冊」は、1976年から始まり(文献1)20年近い歴史がありますので、採用作品の変遷を表にしてみました。
○パンフレットのキャッチフレーズ、キャラクターの変遷
○採用作品の変遷
ここでいう「採用作品」は、基本的には「ブックカバーの写真と解説がつけられている」ものとし、書名のみ紹介されている作品については採用作品とみなしませんでした(ブックカバーの写真が掲載され解説がないものについては採用作品としましたが、◇印をつけて違いがわかるようにしました)。
○コメント
1.70年代のパンフレットには「教養」を感じさせる作品が多く採用されています[註1]が、80年代以降は「教養」系作品が減ってゆき、エンターテイメントや話題作等比較的「軽い」読みものが増えている気がします。これについては、歴史社会学者の筒井清忠氏が文献2でふれているように、昭和50年台に衰退現象を示した日本の教養文化の反映なのでしょうか?
さらに言うなら、90年代半ば以降、新たな変化が起きつつある気がします。
2.日本文学の配列については、80年代初めまでは年代順、それ以後はほぼ作家名(近年は冒頭が芥川龍之介になっていますが、純粋に作家名順とするなら赤川次郎の方が先になる)の順になっています(ただ、1990年だけは例外的に年代順になっています)[註2]。
3.新作を次々出している作家は、採用作品も次々と変化しています。
4.宮沢賢二、夏目漱石については、近年採用作品数が増加する傾向がみられます。
(漱石についていえば、「吾輩は猫である」がなぜかほとんど採用されていません。)
5.採用される作家については、「世代交代」される傾向がありますが、坂口安吾、幸田文等は近年採用されるようになっています。
○参考文献
*1:『新潮社100年図書総目録』紀田順一郎監修、新潮社、1996年
*2:『日本型「教養」の運命 -歴史社会学的考察-』筒井清忠、岩波書店、1995年
○註
*1:76,79年のパンフレットの巻末には、新潮文庫中学校国語・高等学校現代国語採用作品一覧表が掲載されています(80年代以降は読者プレゼントの景品が掲載)。80年付近を境にして「新潮文庫の100冊キャンペーン」の性格が変わったのでしょうか?
*2:網羅的に調べたわけではありませんが、同じようなことが新潮文庫や角川文庫の解説目録についてもいえるような気がします。
おおざっぱにいえば、70年代までの文庫解説目録では、
@日本文学の作品解説が年代順(二葉亭四迷あたりが冒頭になる)に配列され、
A作品解説には文学史的な記述が含まれ、
B解説欄の文字数が現在よりも多い。
という特徴があり、目録を読んでも楽しめるようになっています。
現在の文庫目録は「解説を読む」よりも「作品を探す」ために作られているような気がします。
岩波文庫についていうなら、現在でも年代順の配列を維持していますが、日本文学の作品解説のうちいくつか(漱石の作品等)は10年単位くらいで変えられ、最近変えられた作品解説には文学史的記述が少ない気がします。