図書室

No.1
『ブルーポピー  藤田弘基写真集』
 〜ヒマラヤを彩る幻の青〜

藤田弘基・写真
茂市久美子・文


講談社、1995年刊
1500円


青いケシの花

 青いケシ(ブルー・ポピー)は、ヒマラヤ東部地域などの中央アジア高山域に自生し、美しい青色の花を咲かせることから今世紀前半期にイギリスのプラントハンター(*註1)たちが採集対象にした植物といわれる。
 私が「ヒマラヤの高峰」(深田久弥著)(*註2)や「秘境ブータン」(中尾佐助著)(*註3)を読み、この花のことを知った当初は、どんな姿であるかわからず、あれこれ想像していた時期もあった。
 そのうち、キングドン・ウォード(*註4)の「青いケシの国」(倉知 敬訳、白水社)を手に入れた。巻頭には青いケシのカラー写真が掲載されており、初めてこの写真を見た時は、それまで想像していた可憐さよりも、とげの多い姿から少し不気味な印象を受けたのを今でも記憶している。しかし、何回か写真を見るうちに、この花の持つ青さに美しさを感じるようになっていった。
 青いケシの写真は、その後も雑誌等で見かけることはあった(*註5)が、大抵はヒマラヤを彩るいくつかの高山植物の1つとして紹介されている。他の植物にない美しい青色を持つこの花だけをまとめて見たいと思っていたところ、青いケシをテーマとしたこの小さな写真集をみつけた。

 青いケシにはいくつか種類があるが、本書に収録されているのは、大半がメコノプシス・ホリデュラであり、他の青いケシは、メコノプシス・ベラが2枚しか収録されていない。個人的にはヒマラヤ東部、ヤルツァンポ河大屈曲部の探検で著名なF.M.ベイリイ(*註6)の名のついたメコノプシス・ベイリイの写真も載せてほしかった。
 それでも、この写真集にはホリデュラの生態(花を咲かせるのは2年に1回らしい)やホリデュラの白や紫色の変種も掲載されており、青いケシへの興味を十分満足させてくれる内容を持っている。

 なお、本書は出版後すでに3年を経ているため、現在では大きな書店でもなかなか見かけなくなっている。インターネットで検索したところ、1998年12月現在も在庫があるらしい(*註7)が、写真集は活字本よりも増刷されることが少ないため、副題のとおり”幻の青”となってしまうかもしれない。
(98.12)


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